「ねぇ、また会ってくれる?」

「それは契約外だなぁ」

男はベッドの上で仰向けになっていた。
女は男の横で男を方を向きながら、丸くなっている。

「じゃあ、もう一度、契約をしてよ」

「それは出来ない相談だって事は君が一番、分かっているはずだ」

言われて女は言い返せない。
そして男が言葉を続ける。

「ゲノムマネージャーの利用は一人、一度だけ。それを破れば極刑が待っている」

「それはそうだけど、」

女は言い澱む。
それを見て、男が更に言葉を続ける。

「極刑を受けるのは君なんだよ。俺はお咎め無し。それでもいいの?」

「よくはないけど」

「それに俺だって、お咎めは無くても共犯者になってしまう事に変わりは無い。俺に共犯者になれって言うの?」

「駄目?」

「駄目に決まっているだろ」

男が苦笑した。
女は残念そうに言う。

「つま~んな~いの~」

「俺達は恋人でも何でもないんだぜ」

「今はそうかもしれないけどさ~」

「今後もだよ」

「酷~い」

「どっちが酷いんだよ。ゲノムリーダーの事、何も分かってないんだもんなぁ」

「そうよ。分からないわ。だから何?」

「じゃあさ、もし家族が殺されたとして、その家族を殺した犯人を愛する事は出来る?」

男は半身になって女の方へ向いた。

「そんな事、出来る訳無いじゃない」

「それが出来る人間にしか、ゲノムリーダーになる資格はない」

「別に私はゲノムリーダーになりたい訳じゃないけど」

「ゲノムリーダーは善も悪も引っくるめて、この世界の全てを愛さなければならないという事」

「だから!?」

「その為には特定の誰かや何かを愛する能力は邪魔なものでしかない」

「そうなんだ」

「だからゲノムリーダーは先天的にその能力が欠落している半端者しかなれない」

「半端者ねぇ」

「その代わりに全てを愛する能力を持って生まれてくる」

「ねぇ、それって幸せなのかなぁ?」

「まあ、それは受け取り方次第だからねぇ。俺は幸せだよ」

再び、男は仰向けになる。

「そっか」

「ゲノムリーダーにとっては他人の幸せが自分の幸せ」

「だったら、いいじゃない」

「何が?」

「また私と会ってくれても。仕事抜きでいいからさ」

「何で、そうなるんだよ!?」

「私、あなたと一緒にいると幸せよ」

「ありがとう。その言葉は素直に喜んでおくよ」

「本当かなぁ!?」

「それはお互い様だろ」

「私は本当よ。だって私が今までに出会ってきた男達は、、、」

女はそこまで言って、言葉にならなくなる。
そして自分の腕に刻まれている無数の傷を撫でた。

「分かっているよ。だから俺を頼ってきた」

「うん」

「でも、もう大丈夫」

「そう!?」

「君と俺はすでに出会った」

「それで?」

「君はもう自分の将来を悲観する必要は無いという事」

「本当!?」

「勿論、必ず、とは言えない。でも、君の努力次第で何とかなるはず。今までゲノムの影響でどうにもならなかった部分は書き換えたから」

「私に出来るかな!?」

「自分を信じろ」

「だって私も半端者。生きていたくないのに生きてしまっている」

「そんな自分を変えたくて、俺を呼んだんだろ!?」

「それはそうだけど」

「大丈夫さ」

「うん」

「だって、数えきれない依頼の中から、君は選ばれた」

「何故、私を選んでくれたの?」

「君が一番、俺を必要としていると感じたから」

「ありがとう」

「君は自分の力で俺との出会いを引き寄せた」

「そうなのかな!?」

「そうだよ。だから、やって出来ない事は無い」

「ありがとう」

「その内、もっと素敵な出会いを演出する事も出来るさ」

「え~!?」

「ただ、その相手は俺じゃない」

「何それ~!?」

「俺は特定の誰かのパートナーになる資格の無い半端者」

「それって体よく私を避けてない!?」

「そう思いたければ、好きにすればいい」

「武蔵って意地悪なのね」

「ただ、これだけは言える」

「何?」

「今日の君は最高に可愛かったよ」

「ありがとう」

女は少し照れた。

「朝になったら、俺は次の依頼主のところへ向かわなければならない」

「次は何処へ行くの?」

「次は空の上かな」

「何それ!?」

「アメリカの依頼主のところへ行くまでに、一人、飛行機の中でマネージメントをする事になっている」

「そんな事までしなきゃならないの?」

「一人でも多く、笑顔に出来たらいいでしょ!?」

「我が儘を言って、ごめんなさい」

「俺も我が儘を聞いてあげられなくて、ゴメン。その代わり、朝までは付き合うよ」

そう言うと、武蔵は女に唇を重ねた。

そして二人は一人の男と一人の女へなっていく。